日本で報告された乳児ボツリヌス症例
2017年3月に本邦で初めての死亡例の報告があったが、1986年以降、2017年までに確認された小児ボツリヌス症の国内報告は37症例ある。
情報が見つかった1, 17, 19, 31, 34, 36例目についてそれぞれ概要をまとめた。



国内報告第36例目(死亡)
発生年月 | 2017年2月 |
場所 | 東京都足立区 |
月齢 | 5ヶ月児 |
性別 | 男児 |
既往歴等 | |
主訴 | けいれん、呼吸不全等 |
現病歴 | 2月16日から、せき、鼻水等の症状を呈していた。 2月20日、けいれん、呼吸不全等の症状を呈し、医療機関に救急搬送 2月21日に別の医療機関へ転院 3月30日午前5時34分に当該患者が死亡 |
患者は、発症の約1か月前から離乳食として、市販のジュースにはちみつを混ぜたものを飲んでいた。
食中毒の発生について|東京都
検査の結果、患者ふん便及び自宅に保管していたはちみつ(開封品)から、ボツリヌス菌を検出した。
3月15日(水曜)、足立区足立保健所は、「離乳食として与えられたはちみつ(推定)」を原因とする食中毒と断定した。
国内報告第34例目
発生年月 | 2016年6月 |
場所 | 神奈川県横浜市 |
月齢 | 4ヶ月児 |
性別 | 男児 |
既往歴等 | 特記事項なし |
主訴 | 便秘・活気不良 |
現病歴 | 医療機関を受診, 同日入院 入院後, 全身状態の悪化は認められなかったが, 便秘が遷延し, 啼泣は弱々しく活気不良も持続した。 |
身体所見 | 入院時, 体温36.9℃, 血圧84/44 mmHg, 心拍数136/分, 呼吸数24/分, SpO286% (RA) |
神経学的所見 | |
血液検査所見 | 入院時の血液検査所見では明らかな異常は認められず |
尿所見 | |
髄液所見 | 異常なし |
頭部MRI・MRA | 異常なし |
超音波検査 | 異常なし |
脳波 |
患者家族への聞き取りなどから, 患者はハチミツの摂食歴はなかった。保健所が, 患者家族が摂食していたハチミツ1検体, 患者が摂食していた乳児用の粉末茶2検体, 環境検体(掃除機内のゴミ, エアコンフィルター)5検体を確保したため, クックドミート培地に接種しボツリヌス菌の分離培養を行ったが, すべて陰性であった。
横浜市で発生した乳児ボツリヌス症について
国内報告第31例目
発生年月 | 2011年10月 |
場所 | 大阪府堺市 |
月齢 | 6ヶ月児 |
性別 | 男児 |
家族歴 | 神経・筋疾患なし |
主訴 | 活気・哺乳不良 |
現病歴 | 10月28日(第1病日)より排便がなかった。 11月2日(第6病日)より哺乳不良。 11月3日(第7病日)より痰が絡み、啼泣も弱く活気不良 となった。 11月4日(第8病日)哺乳不可能となったため当科を紹介 され同日入院となった。嘔吐は認めず。 |
身体所見 | 肺音 整・雑音なし、 心音 整・雑音なし、 咽頭 発赤・腫脹なし、 腹部 平坦・軟、 顔色やや不良、 皮膚脱水所見なし、 大泉門膨隆なし |
神経学的所見 | 全身の筋緊張低下 定頸なし 眼瞼下垂あり、 深部腱反射:四肢にて消失、 病的反射:なし、 対光反射 左右差ないが、両側で緩慢 |
血液検査所見 | 血算、生化学一般に異常認めず、 抗Ach受容体抗体:陰性 |
尿所見 | 糖(-)、蛋白(±)、潜血(-)、ケトン体(3+) |
髄液所見 | 正常(水様透明、細胞数3/3 、多核球0、単核球3、 蛋白定量 15 mg/dl 、糖定量 70mg/dl) |
頭部MRI | 皮髄境界明瞭 皮質形成異常なし |
心・腹部エコー | 異常なし |
脳波 | 正常睡眠脳波 |
患児は発症1カ月前より離乳食を開始されていた。ハチミツの摂取はなかったが、母親は患児の症状出現約1週間前より毎朝蜂の巣付きハチミツを喫食していた。当該ハチミツ80gを検査に供したがボツリヌス菌芽胞は検出されず、本症例の感染源は特定できなかった。
大阪府で発生した国内31例目の乳児ボツリヌス症例
国内報告第19例目
発生年月 | 2005年7月 |
場所 | 愛知県岡崎市 |
月齢 | 9ヶ月 |
性別 | 女児 |
主訴 | 眼瞼下垂、活気不良、経口摂取低下、便秘 |
テンシロンテスト | 陽性 |
家族歴・既往歴に特記すべきことなし。ハチミツを摂取したことはない。病前の精神運動発達は正常で、伝い歩きまで可能であった。
岡崎市保健所で家庭のハチミツとチーズを検査したがボツリヌス菌は分離されず、本症例の感染経路は不明である。
乳児ボツリヌス症の1例
国内報告第17例目(広島県第1例目)
発生年月 | 1999年3月 |
場所 | 広島県 |
月齢 | 7ヶ月児 |
性別 | 男児 |
主訴 | 哺乳量の減少、便秘 |
現病歴 | 眼瞼下垂、筋力低下の進行(全身性)、啼泣微弱、呼吸運動減弱 |
乳児ボツリヌス症の多くは蜂蜜の摂取が感染源と考えられているが、患児には蜂蜜の摂取歴はなく、ベビーフードやサツマイモに付着していた泥からもボツリヌス菌および毒素遺伝子は検出されず感染源は判明しなかった。そのため、塵(house dust)など環境調査の必要性も示唆された。
毒素遺伝子A・B型保有株による乳児ボツリヌス症の一例-広島県
国内報告第1例目
発生年月 | 1986年5月 |
場所 | 千葉県 |
日齢 | 83日児 |
性別 | 男児 |
主訴 | 哺乳力の著明な低下、全身の筋力低下 |
確認診断のため,患児の糞便の培養,毒素検出が行われた。その結果,A型ボツリヌス菌および毒素が検出され,本邦第一例の「乳児ボツリヌス症」が確認された。次いで感染源の検索が行われ,患児に使用されていたハチミツからA型ボツリヌス菌を検出できた。
<国内情報>「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例
食品のボツリヌス菌

